あの夏よりも、遠いところへ


「わあっ……!」


知らない場所まで来ていた。すごい。持久走は嫌いだけど、それよりもたくさん走ったはずなのに、全然苦しくない。

うちの近くよりも小綺麗に整備された街並みはなんだか新鮮で、自分が制服を着ていることなんかすっかり忘れて、胸を弾ませた。


上に行きたい。あの空に少しでも、少しでも近い場所へ。

だから丘に登った。小高いそこからはいつも住んでいる街が一望できるんだから、驚いた。


「あーーーーーっ!!」


何度も何度も、下に横たわっている街に向かって意味のない叫びを上げる。

そろそろ喉が痛い。でも、声帯が切れたってべつにいいや。


ああ、気持ちいいなあ。朝日がまぶしくて、ちゃんと目を開けていられない。



「――うるさいなあ」


「……えっ?」

「すっきりしたいならカラオケにでも行ってよ」


ぽつりと落ちた透明な声に、それまでの良い気分はすべて飛んでいってしまった。

まさか、先客がいるだなんて思わなかったな。こんな時間に、こんな場所で、いったいなにをしているのだろう。

……いや、そんなことを言ったらわたしも同じか。


「おれ、すげー眠いんだけど」


芝生に黒いリュックを置いて、それを枕にして。

不機嫌そうに眉をひそめたそのひとは、ごろんと地面の上に寝そべって、静かに目を閉じる。