棺桶に覆い被さって泣いた。この寝顔だけはどうしてもひとりじめしたかった。
淋しそうに笑う表情は嫌いだったけれど、こんなふうに違う顔を見たいわけではなかったんだ。
心からの笑顔に、できれば俺がしてやりたかった。
「……蓮くん、ごめんね。これ、貰ってくれへんかな」
「え……」
「沙耶に言われとってん。清見蓮くんに渡してほしいって」
A4サイズが入る、大きくて真っ白な箱を、サヤのオカンに手渡された。
サヤらしい色だ。ちらりと彼女の寝顔を見て、またぶわっと涙が込み上がる。
「……これ」
「あの子が大切にしとった楽譜」
サヤのオカンは、そのタイトルはすべてサヤがとても好きだった曲だと言う。
彼女のお気に入りが詰め込まれた箱は重たくて、俺には、とうてい抱えらんねえよ。
「こんなん、俺、貰われへん……」
「そうやんな、嫌やんな、こんなの」
あ、また、その淋しそうな表情だ。嫌なんだ、その顔は。
サヤとよく似た顔でその顔をされると、切なくて死にそうになるから。
「……ほな、せめて、これだけは読んでくれる?」
手渡されたのは、薄いピンクの封筒だった。
「手紙……?」
「うん、そうやと思う。中身は確認してへんけど、あの子が蓮くんにって」
四つ折りにされた少し大きな便箋には、サヤらしい、流れるような繊細な字が敷き詰められている。
蓮、と始まるそれに、俺はまた、情けないくらいわんわん泣いた。