北野朝日ってのは、ちょっと形容しがたい、難しい存在だ。
「清見、絶対なんかあったやん」
「無いって」
「いやあるやろ? 言えへん? 言えへんようなことなん? なあ、おまえどこで童貞捨ててきてん」
「はあっ!?」
うわ、カマかけやがった。「へえ」と口角を上げるいやらしい顔は、それでも男前なんだから腹が立つ。男前ってのは、ずるいな。
「もしかして北野さん――」
「ちゃうわ! おまえほんっま黙れよ!」
遠藤はずっと、俺と北野の関係を疑っているようだ。だから言えねえよな。北野の姉ちゃんです、なんてさ。口が裂けても。
北野にも、言うつもりはなかった。隠せるなら隠し通すつもりだった。
バレたし、もういいけど。ていうか、あのプール開きの日以来、北野はわりと普通で、拍子抜け。避けたりもしねえけど、余計なことは喋りませんってスタンス。いつも通り。
小雪さんとなんか話した? って訊きてえけど、いま北野と小雪さんの話をするのはこわくて、訊けずにいる。
「清見と北野さんはさ、どないな感じなん?」
どないな感じって、どないや。
「……分からん」
正直、めちゃくちゃ気になる。小雪さんの妹だからとか、そういうのじゃない。
でも、言葉にはできない。女として好きかって訊かれたら、やっぱり素直には頷けねえしな。