細い腕を掴み、無理やり起こそうとすると、腹を脚で蹴られた。わりと本気だったろ。この野郎。
「おいコラ、痛いちゅうねん!」
「朝帰りてどないやっ」
寝起きのくせに、スミレははっきりとした声で怒鳴った。
「兄ちゃんのくせに朝帰りて、なんやねん!」
「声でかいって。まだオトンとオカン寝てんねんぞ」
「うっさいわボケ!」
タオルケットが飛んでくる。続いて枕。3番目に飛んできた目覚まし時計が右肩に当たって、痛かった。
オトンやオカンならともかく、どうしてスミレがこんなにもご立腹なんだよ。だけど彼女が泣きだしたので、なにも言い返せなかった。
「ごめんて。なんで泣くねん」
「きしょいねん。うちのシャンプーの匂いとちゃう……」
そういえば、子どものころはよくこうして頭を撫でていたよなあ。スミレはよく泣く女の子だった。
「女の匂いや」
「なんやねん、それ。分かるん?」
「分かる」
泣くか怒るか、どちらかにすればいいのに。涙目で睨みつけてくる妹は、やっぱり女の勘がすげえと思った。
分かるもんなのかよ? 女の匂いとか、分かんねえだろ、普通。16年間ずっと一緒に生活してきたからかな。
「……どこの誰と泊まってきたんか早よ言え」
サヤに似た、クラスメートの姉ちゃんと。
さすがにそんなことを言う図太さは持ち合わせてねえよ。黙っていると、もう一度、蹴られた。



