◇◇
彼女とは駅で別れた。お互いなにも言わなかった。ただ目の前で彼女は優しく微笑んで、最後に俺の頬を一度だけ、撫でた。
北野の顔が思い浮かばなかったわけじゃない。あいつのこと、女として好きだとか、そういうふうに意識しているわけじゃねえけど。
知られたらダメなような気がした。小雪さんは北野の姉ちゃんだしな。
あんな無垢な女にいまの俺を見られたら、たぶん、確実に嫌われると思う。北野に嫌われんのは、やだな。あの真っ直ぐな瞳が俺から逸らされるって考えただけで、すげえこわいよ。
東に輝く朝日を眺めながら、たらたら家路をたどる。ふわふわしている。自分の足で歩いてねえ感じ。
どこかすっきりしているのは、生まれてはじめて女と寝たからってわけじゃねえと思う。もっと違う。そういう物理的なことじゃねえんだ。
はじめての朝帰りだった。まだ家族は寝ている時間だし、静かに自室へ向かった。
驚いた。だって、ベッドに妹が寝てんだぜ。部屋を間違えたのかと本気で思った。一度部屋を出て確認するくらい。でも、やっぱり俺の部屋だった。
「……おい、スミレ」
「ん……?」
「なにしてんねん。ここ、俺の部屋やぞ」
タオルケットを無理に剥がすと、ちらりと腹が見えた。どきりともしねえけど。妹だし。
ていうか、これ、俺のタオルケットじゃん。なにがっちり掴んでんだよ。いつもは憎まれ口しか叩かねえくせに。
彼女とは駅で別れた。お互いなにも言わなかった。ただ目の前で彼女は優しく微笑んで、最後に俺の頬を一度だけ、撫でた。
北野の顔が思い浮かばなかったわけじゃない。あいつのこと、女として好きだとか、そういうふうに意識しているわけじゃねえけど。
知られたらダメなような気がした。小雪さんは北野の姉ちゃんだしな。
あんな無垢な女にいまの俺を見られたら、たぶん、確実に嫌われると思う。北野に嫌われんのは、やだな。あの真っ直ぐな瞳が俺から逸らされるって考えただけで、すげえこわいよ。
東に輝く朝日を眺めながら、たらたら家路をたどる。ふわふわしている。自分の足で歩いてねえ感じ。
どこかすっきりしているのは、生まれてはじめて女と寝たからってわけじゃねえと思う。もっと違う。そういう物理的なことじゃねえんだ。
はじめての朝帰りだった。まだ家族は寝ている時間だし、静かに自室へ向かった。
驚いた。だって、ベッドに妹が寝てんだぜ。部屋を間違えたのかと本気で思った。一度部屋を出て確認するくらい。でも、やっぱり俺の部屋だった。
「……おい、スミレ」
「ん……?」
「なにしてんねん。ここ、俺の部屋やぞ」
タオルケットを無理に剥がすと、ちらりと腹が見えた。どきりともしねえけど。妹だし。
ていうか、これ、俺のタオルケットじゃん。なにがっちり掴んでんだよ。いつもは憎まれ口しか叩かねえくせに。



