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それはまるで普通のデートだった。街を歩く恋人たちに、俺たちはたぶん、自然に溶け込んでいたと思う。

でも、はじめてのデートが恋人じゃない女性とだなんて、なんだか悪いことしてるみてえだ。


彼女はその手順をすべて知っているかのように、年上らしく振る舞ってくれた。

ふたりでショッピングをして、お洒落なカフェでひと休みして、なんでもない話をする。


本当になんでもねえんだよ。なんでもねえけど、ずっと夢見ていたことなんだろうと思う。

そしてたぶん、これら全部は、サヤが普通にはできなかったことなんだ。


「暗くなってきたね」

「そうっすね」


6月下旬の陽は長いけれど、楽しい時間はあっという間だった。


ぽとりと沈黙が落ちる。

帰るのかな。よく分かんねえけど、俺、本当にこれでサヤのこと忘れられんのかな。

……分かんねえや。分かんねえから、黙っておこう。


「蓮くん、今夜はなにか、用事はある?」

「え……無い、すけど」


そうとつぶやいた小雪さんの右の手のひらが、俺の左手を優しく握った。

彼女はそれ以上、なにも言わなかった。だから俺もなにも訊かないことにした。


手をつないだまま、果てしなく長い道をゆっくり歩いた。彼女が足を止めたのは、ホテルの前だった。