◇◇
それはまるで普通のデートだった。街を歩く恋人たちに、俺たちはたぶん、自然に溶け込んでいたと思う。
でも、はじめてのデートが恋人じゃない女性とだなんて、なんだか悪いことしてるみてえだ。
彼女はその手順をすべて知っているかのように、年上らしく振る舞ってくれた。
ふたりでショッピングをして、お洒落なカフェでひと休みして、なんでもない話をする。
本当になんでもねえんだよ。なんでもねえけど、ずっと夢見ていたことなんだろうと思う。
そしてたぶん、これら全部は、サヤが普通にはできなかったことなんだ。
「暗くなってきたね」
「そうっすね」
6月下旬の陽は長いけれど、楽しい時間はあっという間だった。
ぽとりと沈黙が落ちる。
帰るのかな。よく分かんねえけど、俺、本当にこれでサヤのこと忘れられんのかな。
……分かんねえや。分かんねえから、黙っておこう。
「蓮くん、今夜はなにか、用事はある?」
「え……無い、すけど」
そうとつぶやいた小雪さんの右の手のひらが、俺の左手を優しく握った。
彼女はそれ以上、なにも言わなかった。だから俺もなにも訊かないことにした。
手をつないだまま、果てしなく長い道をゆっくり歩いた。彼女が足を止めたのは、ホテルの前だった。
それはまるで普通のデートだった。街を歩く恋人たちに、俺たちはたぶん、自然に溶け込んでいたと思う。
でも、はじめてのデートが恋人じゃない女性とだなんて、なんだか悪いことしてるみてえだ。
彼女はその手順をすべて知っているかのように、年上らしく振る舞ってくれた。
ふたりでショッピングをして、お洒落なカフェでひと休みして、なんでもない話をする。
本当になんでもねえんだよ。なんでもねえけど、ずっと夢見ていたことなんだろうと思う。
そしてたぶん、これら全部は、サヤが普通にはできなかったことなんだ。
「暗くなってきたね」
「そうっすね」
6月下旬の陽は長いけれど、楽しい時間はあっという間だった。
ぽとりと沈黙が落ちる。
帰るのかな。よく分かんねえけど、俺、本当にこれでサヤのこと忘れられんのかな。
……分かんねえや。分かんねえから、黙っておこう。
「蓮くん、今夜はなにか、用事はある?」
「え……無い、すけど」
そうとつぶやいた小雪さんの右の手のひらが、俺の左手を優しく握った。
彼女はそれ以上、なにも言わなかった。だから俺もなにも訊かないことにした。
手をつないだまま、果てしなく長い道をゆっくり歩いた。彼女が足を止めたのは、ホテルの前だった。



