嗚咽しながら、子どもみたいに、サヤとのあの夏を語った。小雪さんは小さく相槌を打ちながら、ずっと聞いてくれていた。
「……ごめん。ごめんな。サヤ、ごめん……っ」
サヤには俺しかいなかったのにな。
俺に彼女を責める権利なんて、ひとつもない。いまだったら分かるよ。俺がサヤの立場でも、たぶん、同じことをしていたと思うから。
「うん。つらかったね。苦しかったね。蓮くんはとても、優しいね」
違う。全然そんなんじゃねえんだ。優しくなんてねえよ、俺。
「もう解放されよう」
「え……」
「大丈夫だよ。一緒に、サヤさんにお別れをしようよ」
小雪さんも泣いていた。涙を落としながら、微笑んだ。
「きょう一日で、蓮くんの初恋を供養するの」
「供養……?」
「そう。私がきょう、蓮くんの、蓮くんだけのサヤさんになる」
よく分からなかったけど、なんだかすげえことをしているような気がした。地に足がついていない感じ。まるで夢を見ているみてえだ。
「……うん」
彼女は笑って、俺の額に、頬に、瞳に、優しいくちづけを落とす。最後はくちびるに。
もう儀式は始まっているのだと思った。
ずっと大切にしていた、それでいて本当は置いてきたかった気持ちに、さよならをするために。



