小雪さんは優しい。優しくて甘い、サヤに似たひと。
「あの、すみません。俺……」
「ううん。大丈夫だから、謝らないで」
腕を緩める。目の前の彼女は微笑み、優しい眼差しで俺を見上げている。俺いま、たぶん、すっげえ情けない顔してるんだろうな。
彼女の右手が左頬に触れた。ひんやりしていて、泣きそうだ。
「……彼氏、に、申し訳ないす」
「いないよ。こないだ別れたの。もしかして、彼氏って朝日ちゃんが言ってた?」
「え……」
もう、わけ分かんねえよ。
そっと、くちびるが触れた。それが合図かのように、何度も何度も、どちらからともなく重ねた。夢中だった。
生まれてはじめて知るキスは、温かくて、死ぬほど切ねえんだ。
「……蓮くん」
「小雪、さん……俺」
「蓮くん、泣いてるよ」
彼女の両腕が抱きしめてくれるままに、俺はその胸で泣いた。子どもみたいに、声を上げてさ。めちゃくちゃ情けねえけど、止まらなかった。
髪を撫でてくれる手のひらが優しくて、安心する。
「……うん。もう大丈夫だよ、蓮くん」
本当に? もう、嘘つかねえ? どこにも行かねえ? 黙って死んだりしねえよな?
ずっと後悔していたんだ。どうして俺はなにもしなかったのかって。あの日、手のひらを握って、どうしたんだって訊けばよかったのに。
だって納得いかねえよ。あんな別れ、全然、納得してねえよ。



