あの夏よりも、遠いところへ


少しの沈黙が落ちた。そろそろもうダメだと思った瞬間、口を開いてくれたのは小雪さんのほうだった。


「……ねえ。朝日ちゃんって、学校でどんな感じ?」

「えっと……まあ、普通っす」


まったく普通じゃねえけど。群れねえし、むすっとしてるし、しゃべらねえし。

けど、いま北野について語っている余裕はどこにもない。


「私ね、心配してるんだ。朝日ちゃんのこと」

「心配?」

「うん。朝日ちゃん、ちょっと難しい子でしょ? 真っ直ぐなんだよね、すごく。痛いくらい」


ああ、なるほど。それはすげえ分かる。北野はなんていうか、死んでも嘘だけはつかねえって感じ。

小雪さんの横顔を盗み見た。彼女は困ったように笑って、まぶしそうに目を細めていた。その顔はめちゃくちゃサヤに似ていて、ずっとは見ていられねえよ。


「……私、ずっと、朝日ちゃんが羨ましかったの」


長い睫毛が頬に影を作った。


「いつでも自分に正直で、好き嫌いがはっきりしていて。かっこいいよね、朝日ちゃん」

「それは思います。めっちゃ……かっこええっすよ」


率直な感想だ。片瀬さんのために啖呵を切ったのも、ワン・オン・ワンで本気になっていたのも、めちゃくちゃかっこよかった。

嘘がなくて真っ直ぐな、よく分かんねえやつ。