あの夏よりも、遠いところへ


混乱している。顔なんて、もう見れねえ。

それなのに、俺のそんな気持ちなんて知らず、小雪さんは俺の右側に座って、優しく笑いかけたりするんだ。ずりいよな。


「どうしてここにいるの? もしかして蓮くん、岸谷先生と知り合い?」


岸谷って、サヤの苗字だ。動悸がやべえ。なんかもう、呼吸するのもしんどい。


「あ、昔……ちょっと」

「そうなんだあ。じゃあもしかして、娘さんにも会ったことある?」


心臓が跳ねた。サヤのことだ。


「な……んで、すか」

「なんかね、似てるって言われたの。びっくりされちゃった。でも、もう亡くなってるって」


鼓動の音が頭にまで響いて、めまいがした。

なんと答えればいいのか分からない。色々なことが一気に起きすぎて、全然、頭が追いつかねえよ。


「……似てる、思います」


声が震えた。似すぎて混乱しているなんて、口が裂けても言えねえや。


「やっぱりそうなんだね。他人の空似って本当にあるんだねえ」

「はい」


はいってなんだよ、俺。しっかりしゃべれよ。

手、めちゃくちゃ汗かいてんじゃん。どうしよう。すげえ逃げたい。