あの夏よりも、遠いところへ


でも、突然、再会したんだ。ありえねえよな。意味分かんねえよ。

クラスメートの姉ちゃんが初恋のひとにそっくりだなんて、あまりにもできすぎだっての。


北野の姉ちゃんを見たとき、一瞬で全部が蘇った。吐きそうなほど鮮明に、あの夏のことが。

俺はまだこんなにもサヤのことが好きなんだと実感した。実感して、どうしようもなく苦しくなった。


どうしてまだこんなにも胸が痛むんだよ。俺は、いつまで6年前に置き去りにされてんだよ。

むかついた。せっかく思い出になっていたのに、こんなのってアリかよ? 全然ダメじゃん。思い出になんかなってねえじゃん。


「……もう、勘弁して」


指が走り出す。サヤが好きだった曲をひたすらなぞった。これで気が済むのならどんなに良いことか。


俺はいつまでピアノを弾くんだろう。どうして弾くんだろう。サヤのため? 俺、死ぬまで、サヤのために生きんの?

わけ分かんねえよ。……頭、おかしくなりそうだ。



「――すごい」


もう何曲弾いたか分からない。ただがむしゃらに鍵盤を叩いていた指を止めたのは、透き通る、天使のような声だった。


「すごい。蓮くん、ピアノ弾けるんだね」


顔を上げて、どうしてサヤがここにいるんだと、真剣に考えた。