アリガトウと、彼女はとても小さな声でつぶやいた。
「……ごめん。みっともないところ見せたね」
「べつに、兄弟喧嘩なんてめずらしくないやろ。うちなんか日々が喧嘩やっちゅーねん」
「きょうだい、いるの?」
「クソ生意気な妹がひとりな。いっこ下なだけやし、毎日が喧嘩みたいなもんやで」
へえと気のない返事をした北野は、クッキーとスナック菓子を拾って、俺の胸に押し付ける。
「じゃあこれ、妹さんのお土産にしなよ」
「なんでやねん。俺は北野のために買ってきてんで」
「わたしはチョコだけ貰っておくからさ」
なんで俺がスミレなんかに菓子を買って帰るんだよ。
気持ち悪がって食べねえと思う。そもそもスミレはいま、ダイエット中らしいし。
「北野が食べへんなら、お姉さんにあげてーや」
「雪ちゃん?」
「おう」
どうしても意識してしまう。彼女はサヤに似ているから。
名前も話し方も違うけれど、笑った顔とか、天使みたいな雰囲気とか、そういうの。
「……雪ちゃん、きれいでしょう」
北野は敏感だ。俺の動揺をどこからか感じ取って、意味深にそんな台詞を言うんだ。
「ダメだよ。雪ちゃん、彼氏いるよ」
「……べつに、そういうつもりちゃうし」
そんなことを言いながら、少しがっかりしているのは、なぜだろう?



