あの夏よりも、遠いところへ


遠慮がちなノックをした。聞こえているのかすら分かんねえくらいの。

返事は無い。

……いいんだろうか、開けて。でも、お姉さんに頼まれたし。彼女はサヤに似ているし。


「……北野っ」


泣いていたらどうしようと思っていたけれど、そんなのは徒労だった。

とりあえず、ドアを開けた瞬間に、ブルーのクッションが顔面に飛んできたんだぜ。いまほどバスケをやっていてよかったと思ったことはねえよ。

顔面すれすれでキャッチして、その向こうの彼女に目を向けると、泣くどころか、めちゃくちゃ怒った顔をしていた。


「北野、ごはん」

「あんたも食べていくの?」

「……うん、たぶん」

「わけ分かんない」


うん、俺も。

でも、なんとなく、いま俺が帰ったらダメな気がするんだ。なにかができるわけじゃねえけど、いま、お姉さんと北野をふたりきりにしたらダメだって、直感的に思う。


「お見舞い、買ってきてん」

「なに?」

「チョコとクッキーとスナック菓子」


シンプルな、パキッとした青色のカーペットの上に3つ並べる。

北野は黙ったまま、静かにチョコを手に取った。


「……チョコ、好きなん?」

「好き」


驚いた。意外だな。甘ったるいのは嫌いそうなのにな。