「朝日ちゃん、せっかく蓮くんがお見舞いに来てくれたのに、ダメだよ」
「べつに、頼んでないし。ていうか『蓮くん』ってなんだよ」
そりゃそうだ。俺だってよく分かんねえままここに来たんだし。
それでもお姉さんは納得できないらしく、俺に申し訳なさそうな顔をして、北野にもう一度声を掛ける。
「ねえ、朝日ちゃん。いつまで拗ねてるの」
「拗ねてなんかない! だいたい、もとはと言えば雪ちゃんが……っ」
ソファから立ち上がった北野が、真っ直ぐにお姉さんを睨みつけた。
泣きそうな顔をしていた。けれどお姉さんもまた、泣きそうだ。
ここで俺が仲裁するのは違うと思う。ていうか、物凄く場違いな気がする。いますぐ逃げ出したい。よりによって姉妹喧嘩かよ。
「……ごめん。違う。これはわたしの八つ当たりだ」
泣くんじゃねえかと思った。
でも、彼女は俺の右側を風のような速度で駆け抜けて、ある部屋に閉じこもってしまった。北野の部屋だろうか。
「蓮くん、せっかく来てくれたのにごめんね。よかったらお夕飯食べていかない?」
「え、あ、いや、そんな申し訳ないっす」
「ううん。きのうの余りものばかりだから。そんなもの出しちゃうなんて失礼かな」
お姉さんが「朝日ちゃんを呼んできてくれない?」と言うので、俺は恐る恐るながらも、北野の部屋に向かった。
サヤに似た顔でなにかを頼まれて、俺が断れるわけねえんだよな。



