あの夏よりも、遠いところへ


すっきりと片付けられたリビングのソファには、ジャージを着た北野がふてぶてしく座っていた。

なんだ。体調不良とか言ってたわりには、全然元気そうじゃん。


「ただいま、朝日ちゃん」


お姉さんが声を掛けても、彼女はむすっと無視を決め込む。たぶん俺の存在には気付いていない。

姉妹仲、良くねえのかな。


「朝日ちゃん、お友達が来てくれたよ」

「友達?」


ゆっくりと振り返った彼女の強い目が、俺を真っ直ぐに捕らえた。逸らしたかったけれど、俺の身体は情けねえことにがちがちに固まってしまっていて、逸らすことなんかできなかった。


「……なにしてんの?」

「えっ」

「なんで来てんの?」

「いや……担任に、様子見て来い言われて」


うわ、すげえ不機嫌じゃん。

刺さる。彼女の強い視線に捕らえられた俺はまるで、蛇に睨まれた蛙だ。


「体調悪いん?」

「べつに」

「頭痛いんちゃうん?」

「べつに」


もうダメだ。話しかけた俺が馬鹿だった。

ふいっと逸らされた彼女の両目は、つまんねえニュースをたらたら読み上げるだけのテレビに向けられている。殺人事件、事故、芸能人のスクープ。よくもまあ、毎日ネタが尽きねえもんだ。

彼女の表情は嫌悪に満ちあふれていた。まるで世界中が自分の敵かのような、そんな挑発的な顔。