あの夏よりも、遠いところへ


家の前に突っ立っている不審者に優しく話し掛けてくれた、その天使みたいな声のほうに視線を移す。


コンビニの袋が落ちていた。

まるで頭を鈍器で殴られたみてえだ。

だって、こんなの、ありえねえよ。あっていいはずがねえ。


「はじめまして。朝日ちゃんの姉の、小雪です」


笑った顔なんか、完璧だ。ちょっと淋しそうな、困ったような、そんな笑顔。

あやふやだった輪郭が急激にはっきり見えて、吐きそうだ。


北野のお姉さんは、とても、

――サヤに似ている。


「あ……俺、清見っす」

「キヨミくん? 名前?」

「あ、名前、蓮……す。ハスって書いて、蓮」

「へえ。素敵な名前だね、蓮くん」


泣いてしまいそうだった。

サヤに似た顔が、目の前で、天使みたいに笑ってんだぜ。意味分かんねえよ。倒れちまいそうだよ。逃げ出してえよ。

あの夏と違うのは、俺のほうが見下ろしているということ。そうか、俺、でかくなったんだな。きっとサヤと並んでも、もう俺のほうが大きいんだろう。


「よかったら上がっていって。いまは朝日ちゃんひとりだと思うし」


再会できた気がした。サヤが生き返ったような、不思議な感覚。

言われるがままに足を踏み入れると、強烈に女の匂いがして、心臓が跳ねた。スミレとは少し違う、もうちょっとやわらかい匂い。