あの夏よりも、遠いところへ

 ◇◇

6月に入った最初の月曜、北野が学校に来なかった。朝のホームルームで先生が言う前に、俺は気付いていた。


「北野は体調不良で――」


へえ。北野って体調悪くならなさそうなのに、意外だ。すげえ失礼な、勝手な俺のイメージだけど。

そして何故か、放課後、俺が職員室に呼ばれた。


「なんか知らへんか、北野のこと」

「はい?」

「自分で連絡してきてん。頭痛いから休みます、言うて。涙声でなあ」

「いや、ほんで、なんで俺が……」

「お前ら付き合うてんねやろ?」


またそういうことを!

マジかよ。そうかよ。教師たちも、俺たちがそういう関係だと思ってんのか。すげえな。ここまで来ると感心するっての。


「や、付き合ってないスけど」

「嘘つけ。なに照れとんねん」

「照れてへんわっ」


まあ、だけど、気になりはする。涙声って、どういうことだろう。

北野は泣かないと思っていた。馬鹿みてえだけど、生まれた瞬間すら泣かなかった感じがする。

真っ直ぐで冷めた瞳を、北野は、いったいどんな理由で濡らすのだろう?


「てことで、清見、お前様子見てきてくれへんか?」


そんなわけで俺は、意図せずもう一度、北野の家を目指すことになったのである。あの練習試合の日以来だ。

なにかお見舞いとか、買っていったほうがいいのかなあ。