あの夏よりも、遠いところへ


スミレは試合の夜、試合内容を事細かに訊いてくる。試合内容というか、ほとんど遠藤の活躍だけど。


「見に来たらええやん、試合。話すんだるいし」

「えー」


なんだよ。試合中の遠藤はめちゃくちゃかっこいいんだぞ。


「兄ちゃん、妹が来てたら嫌ちゃう?」

「べつに。他人の振りするしどうでもええわ」

「ひっどー!」


スミレより、北野が来るほうが緊張するっての。死ぬかと思った。

北野は、もう一度来ると言った。俺に知らせないで、こっそり見るって。

でも、あんな痛いほど真っ直ぐな目で見られたら、たぶん気付くと思う。不思議だよな。人間って、触れられていなくても、気配や視線を感じるんだ。


「兄ちゃん」

「なに?」

「彼女ができたら、紹介してな。絶対やで」


真面目な顔をしてそんなことを言うスミレに、思わず飲んでいた水で噎せた。


「……おう」


彼女、な。そんなのができる日が本当に来るのだろうか。

気になる女子はいままでに何人かいたけれど、全員同じだった。俺の中のサヤが邪魔をする。

もう輪郭すらあやふやな彼女を、俺の心はいまだに追いかけているんだ。どうして黙って死んだんだ、なんて、どうしようもないことを、いまだに思ったりするんだよ。自分で感心するぜ。

死んだやつってのは、ずるい。