あの夏よりも、遠いところへ


そういえば、北野はいつもスッピンだ。顔立ちがはっきりしているから、化粧をしているケバい女子にも見劣りしねえんだけどさ。

そりゃ、寝癖をぴょこぴょこさせてるんだもんな。化粧なんかしねえよ。


「……え、なにそれ!」


俺の持っているピンクの紙袋を指さして、スミレが高い声を出した。


「貰ってん」

「なに?」

「タオルとスポドリ」

「ええっ! 彼女ちゃうん!?」


ちゃうって。

それでも食い付いてくるから、スミレは面倒くさい。いかにも女子って感じ。とりあえずその長い爪を切れよ。


「なあなあ、どんな子なん? かわいい?」

「彼女ちゃうって。お前ほんまだるいねん」

「なんやねんもー!」


スマホを物凄い速度でタップしながら、うるさい妹は拗ねたように口を尖らせる。

そして、思い返したように、俺の顔を見直した。


「せや、遠藤くん! 元気? 遠藤くんっ」

「おうおう、元気やぞー」


スミレは面食いらしい。だから物凄く、遠藤のことが好き。


「スミレのこと、遠藤くんに言うといてくれた?」

「アホか。そんな好きなら自分で話しかけに行けや」


話したこともないやつを、顔だけで好きになれるってすげえよ。まあ、遠藤はいいやつだし、心配な要素はなにひとつないけど。

でもやっぱり、俺がふたりを繋ぎ合わせるのは、なんか違うじゃん。