あの夏よりも、遠いところへ

 ◇◇

北野の家は、でっけえマンションだった。照れくさかった。けど彼女はなんでもない顔で「じゃあね」なんて言うんだから、俺、馬鹿みてえじゃん。

意外と近いんだな、家。

いつから大阪に住んでいるんだろう。標準語だし、いままでは関東のほうにいたんだろうか。

訊けばよかった。緊張してというよりは、北野のオーラに圧倒されて、なにも話せなかったんだ。


「ただいまー」


お、今夜はカレーか。


「兄ちゃんおかえりー」

「おう」

「遅かったやんか。なにしとったん?」


スミレも高校に上がった。通っているのは俺と違う、もう少し遠くの女子高。かわいい子が多いって評判のところだ。


「べつに、なにも」

「うわ、もしかして彼女ー?」

「ちゃうわボケ」

「あはは、そんなんやからいつまでたっても彼女できひんねんでー?」


あんまり干渉しないようにはしているけれど、スミレは男遊びが激しい。中学生のころからだ。

我が妹ながらなかなかかわいらしい顔をしているとは思うし、男に好かれるのも分かる。俺の妹とは思えないくらい。

お洒落もがんばっているし、化粧も毎朝きちんとしていく。ダイエットもしているらしい。

正直、兄ちゃんは複雑である。いつからこんなに色気づいちまったのかなあ。