「そう言えば、真子さん、僕の新しい小説読んでくれましたか?」

さっきまで黙々と筆を走らせていた青年こと、修一は真子の片付けた本の一冊を手に取り、パラパラとめくった。

「えぇ。あの、少年殺人の。さすがです。面白い作品でした。でも、あれって、三月ほど前に起きた事件をもとにしたんですよね??」

真子が言うや否や修一はめくっていた本をパタリと閉じて、再びソファに腰掛け、ため息をついた。

「そうなのさ。だが、その小説はそれだけでは完結できない。」

意味を理解できない真子は修一を見つめたが、修一は一向にその真意を言おうとはしないのだ。

「何が言いたいの?」

真子がそう尋ねると、修一は凭れていた背中を背もたれから離すと、真子を見上げた。

「犯人はまだ捕まってないんだよ。真子。」

真子はその言葉に驚きを隠せずただ唖然と突っ立っているだけだ。

それもそのはず、その事件とやらはもうとっくに解決しているのだから。

「う、嘘よ!だって確かに事件から3日後の夜に犯人は自主したって!!解決したはずよ??」

真子は声を荒げたことに気づき、徐々に声を潜めた。

「うん。だからね、これから真犯人を捜そうかなって思ってるんだ。」

修一の突拍子のない言葉にまたもや唖然とする真子。
そんな真子を修一は問答無用で腕を引きながら部屋を後にした。