「男と女はうまくいかないねぇ。あんたが山下の方を向いてあげれば、即カップル成立なのに。あんたは全然違う方向向いちゃってるもんねぇ」
綾のその言葉で、あたしはあの男(ひと)を思い浮かべた。
屈託ない笑顔と、やさしい声。
黒板にさらさらとなめらかに書かれる数式。
チョークを握る指は、細くて長い。
「ほんと、山下とは大違い」
思わずこぼれたあたしの独り言に、綾はからからと笑った。
「先生と比べたらかわいそうよ」
「だってさぁ」
あたしはちらりと山下を見た。
口を大きく開けて、男同士でげらげら笑っている。
楽しそうで大変けっこうですけど、男の色気みたいなものは、はっきり言ってゼロ。
「で?で?チョコどうすんの?渡すの?」

