「濡れるぞ、ハニーちゃん」
「な、なんであんたがいるの」
腫れぼったい顔を見られたくなくて、視線をスニーカーに戻す。
「ハニーちゃんの恋を見届けようと思っただけさ」
その台詞を聞いた時、一瞬本気で山下を殴ってやろうと思った。
けれど、あいつは意外にも真剣なまなざしを向けていたので、あたしは握ったこぶしをほどいた。
「……」
「……バス停まで送るよ」
そう言うと、山下は、まるでいつもそうしているかのように、さりげなくあたしの手を取った。
いつもなら、「なに勝手なことしてんのよっ!」とか言って、その手を振りほどいたんだろうけど。
今日は、今は、できなかった。
山下の手が、温かかったから。
体温が、凍えた心に染みたから。

