「見てください」
まりあが封筒から、中の手紙を取り出した。
その手にはいつの間にか手袋がはめられていた。
セッテも素手で触らないように気をつけながら、その手紙を覗き込む。
そこにはパソコンで打ち込まれた、無機質な文字が並んでいた。
『2月14日に執り行われる、
織田・甲斐両家の結婚式を中止しろ。
さもなくば、新郎新婦の命はないと思え』
「これは……」
なんと陳腐な脅迫状だろう。脅迫状のお手本みたいな文章だ。
問題は、そこではないが。
「織田様、甲斐様の結婚式は、確かに2月14日のご予定です。
もちろん、この脅迫状のことはご本人達もご存知です。
同じ日に、同じ内容のものが、新婦様の家に届いたそうです。
しかし、ただのイタズラかもしれない。
ご両家とも、結婚式を中止する意向はないと、おっしゃっています」
まりあは不安がいっぱいという顔で、ぽつぽつと説明した。
「こういうことは、珍しくありません」
「えっ、珍しくないんですか?」
「新郎様も新婦様も、結婚される方はほとんど大人です。
誰でも、生涯を共にするパートナーを見つける前に、何人か付き合っていた人がいらっしゃいます。
平たく言えば、元彼や元カノ、ですね。
そういった方や、ストーカーまがいの方からいやがらせを受けるということは、たまにあります」



