妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~

 うつ伏せでは、足で蹴り上げることもできない。
 大きな妖だと、このままでも足や腕を振り上げれば、どこか打てるかもしれないが、押さえつけている猫又は、姿はまだ小柄な娘だ。
 当たったところで、そう効かないだろう。

 ふと思いついて、呉羽は唯一見えている、己の左肩に食い込んでいる手を見た。
 爪は鋭いが、見た目は普通のヒトの手だ。

 呉羽はすかさず、空いている右手で肩にかかった猫又の親指を握った。
 他の四本の指は、爪が深々と呉羽の肩に食い込んでいるが、親指だけは食い込んでいない。
 猫又が動く前に、呉羽は鋭く伸びた猫又の親指の爪を引き剥がした。

「ぎゃあああぁぁぁっ!!」

 猫又が叫んで手を離した瞬間に、呉羽は手を付いて素早く起き上がった。
 が、床に付いたのが左手だったため、肩に激痛が走り、崩れ落ちてしまう。

 幸い猫又は、まだ親指を押さえて呻いている。
 呉羽は身体を反転させると同時に、思いきり猫又の横っ面を蹴り飛ばした。
 床に叩き付けられ、返って猫又は正気付いたようだ。
 キッと呉羽を睨むと、一瞬身を沈め、床を蹴った。

 呉羽はよろめきながら、床に刺さったそはや丸を掴んだ。
 両手を添えて、思いきり引き抜く。
 そはや丸が床から抜けた瞬間、ぶわ、と結界内に、凄まじい妖気が充満した。
 呉羽に飛びかかろうとしていた猫又は、その妖気に吹き飛ばされた。