「よく言うでしょ。夜になったら、行灯の油を舐めるとか」

「・・・・・・舐めるのですか」

 こっくりと、依頼主が頷く。

「猫の声で鳴いたり、生魚を貪り食ったり」

「腹が減っていた、ということでは?」

「ヒトが、行灯の油を舐めますか?」

 まぁそうですね、と呟き、呉羽は依頼主の屋敷に入り、母屋に回った。
 身なりはそう良いわけではなかったが、なかなか裕福そうだ。
 下級貴族といったところか。

「娘の部屋は、あれに」

 敷地の隅の離れを指され、呉羽はそちらに目を向けた。
 離れとは名ばかりの、納屋のような小屋がある。

「・・・・・・あのようなところに?」

 顔をしかめてみせると、依頼主は目を逸らした。

「可哀相ですが、何分気味が悪くて・・・・・・。いつこちらに襲いかかるかもわかりませぬし」

 世間体もあるのだろう。
 呉羽はそんな依頼主から視線を切り、離れに近づいた。

 傍に近づくにつれ、空気が冷える。
 周りに生い茂った木々のせいだけではない。

「・・・・・・確かに、結構厄介かもしれませぬな」