「!!」

ほんの少しの間だった。

彼はすぐに離れてあたしの顔を見ることなく言った。

「行こう。」

暗くなった座敷を出て、二人は階下へと降りていった。

さっきのことなどまるでなかったかのようにあたしたちはおじさんとおばさんに礼を言って、店を後にした。

家の近くまで送ってもらう間、終始無言だった。

さっきのことが頭の中を駆け回って話す言葉も思い浮かばない。

家から一番近い曲がり角まできて、

「今日はありがとうございました。」

そう言った。

「じゃあ、また明日。おやすみ。」

そうは言われたけれど、足が進まない。

帰りたくない、そういう気持ちは確かにわかった。

「もう、お行きよ。」

いつまでも離れないあたしを促した。