そのとき、彼は、反対方向から自分の下宿に帰る途中だった。

彼は実は、あの一部始終を、向かう道で見ていたらしい。

そして、それがあたしだということがわかって、すごく狼狽したと言っていた。

実は、そのときから以前より、あたし達は互いのことがすごく気に掛かっていた。

彼は帝大の3回生で、互いの学校が同じ町にあったため、あたしたちはよく町で互いを見止めた。

見止めても、そのまますうっと通り過ぎるだけ。

時折、互いの視線が合うとき、いつまでもお互いを見つめ続けていた。

けれど、それは恋、とかいうものじゃなく、ただ単に彼に興味があっただけな訳で、、、、。

彼は、というと、180cmは優に超す偉丈夫で、あたし好みの面でもあったのだけれど、何より笑顔がすごく素敵な人。

そして、何より彼の交友の広さにびっくりした。

いつも、人の輪の中にいる人。

仲間と一緒にいるときはすごくやんちゃなのに、時々、川原でひとり本で顔を隠して昼寝をしていたりする風来坊。

見かけたときは、必ず目で追っていた。

後で、聞いたら、彼もおなじことをしていたと言っていた。