ひとしきり笑いがおさまった。
 俺は試合に来てくれた礼を言おうとした。
 だけど、なんだか照れくさくなった。
 タマと目を合わせないように窓の方を向いて、さり気ないふりして言う。


 試合、観に来たんだな。

 ……うん。


 ――タマは素っ気なく答えた。
 変な詮索も、妙な慰めもない。
 タマのその素っ気なさがありがたかった。
 俺は話を続ける。


 負けちまったよ。

 うん。

 最後の試合だったんだ。

 うん。

 勝ちたかった。

 うん。

 悔しいよ、……俺の、せいで。


 ――自分の言葉に驚いた。
 酔っていたから、口から出た言葉。
 口から出せた言葉。
 タマは何も言わなかった。
 ただ、優しく頭を撫でてきた。
 妙に心地よかった。
 俺はじっと撫でられていた。

 あれ?
 なんでだろ。
 涙が溢れてきた。

 俺は涙を拭かなかった。
 拭けなかった。
 拭いたら、泣いていることをタマに気づかれてしまうと思った。

 急に目の前が真っ暗になった。
 何か、柔らかくて暖かいものが、顔に覆いかぶさってきたのだ。
 
 なんだろう?
 
 半ば反射的に手を回した。
 どきっとした。
 それはタマの細い身体だった。
 
 俺の頭はタマの両腕に抱かれ、顔は柔らかな胸に埋もれていた。
 タマの息づかいを肌で感じた。
 心が和らいだ。
 これが『人の温もり』というものなのだろうと思った。