井戸から汲んだ、バケツの中の水が零れる。
乾燥した地面の土は、水を喜んで吸った。
奴隷たちは、今テントの中の掃除をしている。
開店時間まで、もうすぐだ。
奴隷達は井戸から汲み上げたこの水で、顔を洗うのだ。
「……………」
俺は銀の質素なバケツを眺め、目を細めた。
…今や俺の日課となっているこの仕事は、五ヶ月前まである少女の仕事だった。
珍しい碧色の髪を持った、ちょうどあの赤髪と同じくらいの歳の…奴隷の少女。
彼女が俺の奴隷屋に来たのは、今から一年ほど前のことだった。
主人の召使いと共に来た彼女は、碧の髪を揺らし、何もかも諦めたような瞳をしていた。
『名前は?』と聞くと、『捨てた』と返ってくる。
俺は仕方なく、彼女に名前を与えたのだが。
そこで、ヒュウと風が吹いた。
俺はハッとして、目を伏せる。
…思い出しても、仕方のないことだ。
彼女はもう、ここにはいない。
茶髪の青年に、売られて行ったのだから。



