「…これは、何かの手違いよ。クエイト様は、きっと私を迎えに来て下さるわ」
瞳に涙を浮かべ、震えた声で言う。
俺はその言葉には何も返さず、「早く服を着替えろ」と言った。
「…心配するな。飢えで死ぬような生活はさせない。お前は大事な商品だからな」
そう言うと、少女は鋭い瞳で俺を睨んできた。
…自分が『商品』となったのが、悔しいのか。
彼女の『ご主人様』からどのような扱いをされていたのかは知らないが、よほど愛されていたようだ。
貧しい村の夜に、闇が広がる。
俺は奴隷用のテントの隣に、店主が寝泊まりするためのテントを張りに行く。
奴隷用のテントを閉める際、奥でうずくまっている赤髪の後ろ姿へ、一言声をかけた。
「…俺はエルガ。エルガ・ラルドスだ。隣のテントにいるから、何かあれば来い」
…返事は、なかった。
俺は小さくため息をつき、テントを出る。
夜空を見上げると、星が出ていた。
*
翌朝は、晴天だった。



