『順応力』と『しぶとさ』。
それだけだ。
「夕飯の時間だ」
ひとつため息をついて俺が言うと、子供達は一斉に木の丸太に座り始める。
一人ひとつの、パン切れ。
渡されたそれらを、彼らは美味しそうに食べ始めた。
すると、焦茶色の髪の少年テンが、突然立ち上がった。
その視線は、隅でうずくまり、こちらを見ようともしていない赤髪の少女へ向けられていた。
テンは、よたよたとおぼつかない足取りで、彼女の前へ歩いて行く。
「……………」
皆が驚いた目でその様子を見つめる中、彼は自分のパンをちぎって、少女へ差し出した。
「はい」
顔を上げた少女の目が、わずかに見開かれる。
他の子供達も、驚いていた。
…テンは、優しい子だ。
赤髪の少女が、昨日この店へ来てから何も口にいれていないことに、気づいていたのだろう。
俺は何も言わず、その光景を見つめる。
俺が赤髪の少女へパンをやらなかったのは、恐らく受け取りもしないだろうと思ったからだ。
貴族の家で養われて生きてきた彼女は、乾いたパンなど食べる気すら起きないはずだ。
空腹の限界がきてパンを求めにくるまでは、俺からは何も言わないつもりだったが。



