「…僕は、養子としてビストール家に入ったんです」
一人称が変わり、雰囲気が先ほどより柔らかくなる。
…きっと、こちらが本当のクエイトなのだろう。
ロジンカを見つめるその瞳は、優しく悲しげに、揺れていた。
「それがあって、幼い頃から僕には、家に拠り所がなかった。ひとりだったんです。…今こそ、家督をついで爵位を賜っていますが」
ビストールは、伯爵家だ。
先代が男児に恵まれず、当代クエイト・ビストール伯爵が、幼い頃に養子として迎えられたことは、有名な話だ。
養子という立場ゆえに、苦労したことは多かったのだろう。
クエイトはロジンカを見つめ、目を細めた。
「…この子とは、家督を継いだばかりの頃に出会いました。侯爵に誘われ、断れず…仕方なく訪れた、奴隷屋で」
この、赤に。
惹かれたのです、と、クエイトは言った。



