若き店主と囚われの薔薇



「…ビストール様……」

「余計な世話かとも思いましたが、あなたのテントを張らせていただきました」


見ると馬車の近くに、従者らしき男が目を伏せて立っている。


…俺はあのとき、『今夜はこれで、失礼します』と言ったのに。

あのあと子供達のテントを探し、従者にテントを張らせることまで、してくれたというのか。


驚いて何も言えなくなっている俺に、クエイトは苦笑いを浮かべた。


「ああ安心して下さい、あなたの荷物には手をつけていません。宝石はあなたが全て持っていきましたし」

「…………」

「…その子は、無事だったのですね。ありがとう、ございます」


俺の背中で、安らかに寝息を立てるロジンカ。

クエイトはロジンカが無事だったことに安心したのか、穏やかに目を細めた。


…この男はやはり、ロジンカのことを…


「…ビストール様、」

「エルガどの。まずは、その子を寝かさないと。さあ、テントの中へ」

「……………」

仕方なくクエイトに従って、テントへ足を進める。