若き店主と囚われの薔薇



ーー『私が、君に名前をあげようか』


……ねえ、クエイト様。

あなたもあのとき、こんな想いを持っていたの?


胸の奥が大きく鳴って、私は息を吸い込んだ。

エルガが、もう二度と彼女に会えないと言うならば。

…『私が』。



「届け屋になって、その翡翠を彼女に届けるわ!」



その私の声は、辺りに一際大きく響き渡った。

エルガが、目を見開く。


…『届け屋になる』。

そう、明確に口にしたのは初めてだったけれど。

ストンと、自然に私の中へ落ちて来た。

エルガ。

あなたがそれを私に預けてくれるなら、私は一生をかけて彼女を探し出し、渡すわ。

それはきっと、私が『生きる意味』になる。

…ロジンカとして、翡翠を持って、探しに行く。


もう二度と会えない、彼と翡翠の彼女のために。