彼女は、私の薔薇だった。






あの赤髪をはじめて見たとき、僕はお世辞にも、穏やかとはいえない精神状態をしていた。



『どうですか、ビストール様。これが、あの有名な“赤髪”です』



奴隷商が、横でわかりやすく手を擦りながら話しかけてくる。

鎖に繋がれ、長い赤髪とともに目の前で横たわる少女。

僕の感情は、少しも動いてはいなかった。


『…どうだ、クエイトどの』


後ろから聞こえてくるのは、僕をこの奴隷屋へ連れてきた、侯爵家の男の声だ。


ある建物の一室で、僕はそれらの男達と共に、奴隷の品定めをしていた。

奴隷屋にしては小綺麗な空間だが、もともとこのような悪趣味、好きではない。

誘ってきたのが、自分より爵位が上の人間だったから断れなかっただけであって、奴隷などに興味はなかった。

こんなものより、宝石の方がよっぽど美しい。


何も言わずにいると、やはり後ろから声が聞こえてくる。