あてもなく、この真っ暗な夜の森を。
…力尽きるまで、彷徨い続けるだろう。
「離して…」
「…………」
「…離してよ!」
パンッ、という乾いた音とともに、ロジンカは俺の手を振り払った。
こちらへ振り返ると、キッと鋭く睨んでくる。
「…笑って、たんでしょう。私のこと、ずっと!なんて馬鹿な女だって、哀れな女だって!」
ロジンカは、唇を噛む。
悔しげに、寂しげに、眉を寄せて。
…薔薇の少女は、泣いていた。
「…笑ってないか、いない」
「嘘よ!じゃあ、どうして何も言ってくれなかったの!?わかってたはずよね?今日のこと!クエイト様がここへ来るって!」
「…ああ」
それは、本当だ。
俺は知っていた。
ロジンカが俺の店へ来る以前から、あの伯爵家ビストールの、長男のことを。
届け屋を通じ、今日まで、連絡を取り合っていた。
…もちろん、ロジンカがクエイトの奴隷だということまでは、知らなかったが。



