立ち上がると、バケツを持って、テントへと歩いた。
*
「開店するぞ」
いつものように、朝九時、俺は子供達へ声をかける。
子供達はその言葉を聞くと、寝起きの顔をハッと目覚めさせた。
そして俺と目が合うと、無言で小さく頷く。
…さぁ、今日も覚悟を決めろ。
気に入られる覚悟を、買われる覚悟を、新しい出会いへの覚悟を。
「……わ、たしは、どうしたらいいの」
子供達がいそいそと自分の場所で腰を下ろすなか、赤髪の少女は困惑していた。
俺は目を細めて彼女を一瞥すると、「適当に座っておけ」と言った。
「……………」
少女は眉を寄せながら、何もない空間に腰を下ろす。
それを確認して、俺はテントを開けた。
*
今日一人目の客は、貴婦人だった。
派手な洋服に身を包んだ女は、テントの前に馬車を止め、フフ、と微笑む。



