現実から目を逸らしたくなって、反対方向に走りだした。


ドンッ!


ホテルの入り口に着いた時、誰かとぶつかる。


「ご、ごめんなさい」


顔を上げないで謝り、中に入る。


「おい!どうしたんだよ?」


いきなり腕を掴まれたことに驚き、顔を上げる。


「い、今岡さん…」


「何で泣いてるんだ?何があった?」


「えっ?」


頬を触ると手が濡れた。

泣きながら走っていたらしい。


「何でもないから」


掴まれた腕を振り払って、部屋へと急いだ。


こんな惨めな姿、誰にも見られたくない。