スカッ…


突然上に持ち上がるから、取り損ねた。


「簡単に返さないよ」


「ふざけないでください。大事な物なんです」


私も上に手を伸ばす。


ギュッ


渡部先輩は手の中に握り込んだ。


「ほんとに困ります」


「会えないのにこんなのに縛られているなんてかわいそうだ」


この人は何を言い出すんだ…。


「こんなのないほうがのびのび出来るよ。君のためを思うとこれはいらない物だよ」


そう言って、渡部先輩が飲んでいたビールのグラスの中に放り込んだ。


ポチャン


鈍い音がした後、すぐにリングは沈んだ。


私はそのグラスの中に指を入れた。