「――…大樹」
カナの寝言に一瞬身体が硬直し、寝顔を覗き込んで安心すると少しずつ楽になっていく…
それと同時に、罪悪感にも似た、今までに感じた事もない気持ちが込み上げてきた。
カナ――…
こんな筈ではなかった…
俺の父親はいわゆるキャリア官僚で、幼い頃から金銭面に関しては何不自由なく生活してきた。
母親はそんな父親を尊敬し夫婦仲も良く、家庭も円満だった。
3つ上の兄も優しくて俺はそんな兄を慕い、本当に温かい家族だった。
父は教育に熱心な親ではなかったが、自分が優秀であるが為に、当然の様に子供にも自分と同等の学歴を望んでいた。
努力家だった兄はその期待に応え地元の進学高校に入学し、有名私立大学に現役で合格した。
俺は特に勉強をしていた訳でもないが、元来の要領の良さに加え勘も当たり、兄より1つランクが上の高校に入学する事になった。
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