犬――…


鏡に写っていたのは、紛れもなく1匹のまだ生後間もない柴犬だった。

この犬はあの時の…



茫然と鏡の前に立っていると、突然頭の中にキィンという甲高い音が鳴り響いた。

そして、その音に混じり微かに声が聞こえてきた…



「…ぼ、僕は……出来ないから…側に…て…
代わりに…

僕の代わりに、カナの側にいてあげて!!」

微かに聞こえていた声は、ほんの一瞬だけ大きくなり消えた。


俺はその言葉により意外な程に冷静さを取り戻し、自分の置かれている立場を一気に理解した。



ふぅ…

馴染んですっかりヨレヨレになったマットの上を通り過ぎると、カナが用意して行った牛乳を飲み干した。


そうか…
俺は今、犬になっているんだ。
あの時の仔犬に。


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