カナは僕を抱き締めたまま暫く歩くと、店の前で僕を下ろして入口近くの柱にリードを結んだ。

自動ドアを開け店の中に消えて行くカナの背中を見ながら、僕はあの日の事を思い出そうとしていた。



あの日、路地から思い切り駆け出した僕は、激しいブレーキ音が響く中で誰かに抱かれ…

そう――


誰かに抱かれ、優しい笑顔を見た。



でも僕は怖くて怖くて、その人の腕の中から這い出ると、走って元の路地に戻ったんだ。


「お待たせ~
ダイ、帰ろう!!」



僕なの…?
ひょっとして、カナを悲しませている原因を作ったのは僕なの?

ねえカナ…
僕がカナの涙を流させる原因かも知れないよ。


「きゅーん…」
(ねぇカナ…)

「どうしたのダイ?」


カナは相変わらず優しい表情で、僕を見詰めた。


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