「それで早速で悪いんだけど、不動産屋に連絡するから一瞬に行って欲しいの。
すぐそこだから、歩いて5分くらいだから――」
「その事なんだけど…」
嬉しそうに話すカナの言葉を、母親がポツリと呟いて遮った。
カナもずっと俯いている母親の様子に、何かを感じ取ったのだろう。
神妙な面持ちで聞き返した…
「母さん、何かあったの?」
母親はテーブルの上で自分の両手をギュッと強く握り締めると、顔を上げた。
その表情は目尻が下がり、泣き出しそうな気配すら感じた。
そして、ゆっくりと重い口を開いた…
「あのね、実は先日お父さんが倒れて…
近々検査入院する事になっているんだけど、多分そのまま入院しなければならなくなると思うの。
以前から、肝臓の調子が悪かったでしょ?
もしかしたら…」
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