ドメスティック・エマージェンシー

「でも、殺人鬼の気持ちは少しだけ分かる」

「えっ?」

葵は不意に目を伏せた。
その仕草は何とも儚い。
微動に胸がそわそわ動く。

本当に分かるの、と疑うと葵が首だけで返事をして、言葉を続けた。

「それほど憎かったんだろ。苦しんで、辛くて。もしかしたら眠れないくらいそいつが頭から離れやしなかったのかもしれない。消し去りたくもなるだろう」

私は黙り込んだ。
驚いたんじゃない、あまりにも共感出来たのだ。
葵は以前父親が憎かったと言った。
同じことを感じ、私とは違う苦しみを受けたに違いなかった。

それでも葵は殺さなかった。
何故だろう。

俺にとっては[父親]だった、と言っていた。
それは憎んだあとも……だから、殺せなかった?

では、両親に今会えば殺しかねない私は……私にとって、あの人たちは何なのだろう。

すっかり冷めたご飯が私を見つめていた。