「実は最近推理小説にハマってるの」

しどろもどろに言葉を繋げる。
葵が聞く態勢に入ろうとしていることを見つけ、そのまま続ける。

「でね、何だかその殺人鬼の動機が理解しかねなくて。……葵、わかる?」

葵の本心を覗き込むように見据える。
葵は首を傾げた。

「その小説を読んでないから、分かんないね」

「……ですよね」

もっともだ。
今その小説を持って来いと言われても、むしろそんな小説はないのだから困る。
私がでっち上げた話なのだから。

「そっか、じゃあいいや」

慌てて話を切り上げ、ため息をこっそり放り出した。

これは自分で決めなくてはならないのだ。
葵の意見に頼っちゃいけない。

決心を再び握り締めていると「でも」と葵が声を発した。
釣られて葵に視線を戻す。
軽やかに笑顔をくれた。