動物園へ行って以来私のミスは度々増えた。
転けたり、食器を割ったり、お風呂を涌かすのを忘れていた時もある。

葵はその度に許してくれた。

不甲斐ない、と責めやしない。
どうして[イイコ]でいれないの、とも。

ここでは[イイコ]でいなくていい。

「江里子。そういえばさっきのは?」

思い出したように葵は興味津々で聞いてきた。
さっきのとは何だろう。
首を傾げると「殺人だよ!」と無邪気に言ってのけた。

途端に心臓が飛び跳ね、体温が上昇する。

考えていたことがバレたのだろうか。

焦燥感に駆られ、手が震えはじめる。

嫌われるのではないだろうか。
恐い。
この人にだけは、見捨てられたくない……

恐怖心を隠すように目を瞑った。

「ほら、さっき呟いてただろ。殺人って」

「えっ……?」

世間話でもしてるつもりなのか、葵はさらりと言った。

思わず肩の力が抜ける。
何だ、聞かれていただけか……
それだけなら誤魔化しようがある。

ぽかんと開いた口にそのままご飯を放り込む。
ただのご飯が、アイディアを頭の中で浮上させてくれた。

これは利用出来るのではないだろうか。

チラリと葵に視線をやると、ぶつかり合った。