ドメスティック・エマージェンシー

人波を掻き分けて彼を追う。
通行人が向かい風のように私の前に立ちはだかる。

見失いそうになり、縋る思いで叫んだ。

「有馬!」

引っ張られたように立ち止まる。
声が届いたらしい、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、私を写した目を見開き有馬は逃げた。

「待って!」

私と有馬の追いかけっこが始まる。
軽やかに向かい風を避ける有馬とは対照的に私は度々人にぶつかった。

日常の喧騒と共に怒鳴り声が乱舞する。

それでも私たちは止まらない。
有馬のさっき見せた表情が頭から離れない。
私はきっとその表情を追いかけている。

拒絶されるのを、酷く恐れた表情。
以前の私の表情……

有馬。
か細い声で呟くと、まるでゼンマイの切れた玩具のように有馬が立ち止まった。