それなのに彼はいつからか《ありま》が生きていると錯覚を起こしたのだ。
彼の願望が、彼の頭の中で本当になってしまった。

「……ゆうま……」

「う、ああ……くっ……」

息を呑む。
築き上げた仮面を剥がすように白い頬に月光が流れていく。
泣いていた。
殺すことで、彼の憎しみを悲しみを寂しさを発散していたはずなのに彼は泣いていることに驚いているようだった。

「もう殺さなくてもいいんだよ」

大きな瞳を更に広げ、私を見つめ返した。

やはり、気づいていなかったのだろう。
自分が殺人なんかしたくないことを。

それでも、どうしようもなかったのだ。

彼の涙が刃物となって私を突き刺していく。

――痛い。
だけど、彼はもっと痛かったのだ。