終電がない夜更け。
タクシーを呼ぶにもゼロの仮面は目立ちすぎた。

しかし、外したくないらしい。

私に見られたくないのか、タクシーの運転手に顔を覚えられるのを恐れているのかはたまた両方なのかもしれないが、ゼロはどちらも拒みこのまま家まで行くと言い出した。

「遠いんじゃないの?」

「まあな。お前があそこから離れたいって言うから、出来るだけ遠くを選んだんや。……って、言うても、県内やけどな」

朝には着くやろ、と呑気に笑って少し歩幅を広めた。
足の長いゼロが少し早めるだけでもグンッと進み、私は小走りで後を追う。

「ちょっと!めちゃくちゃ過ぎない?!」

抗議すると、ゼロは唇だけで笑い左を差した。
ゼロの指を辿ると、小さな四角い白い車があった。

「誰も歩いて行くなんか言ってへんやろ」

舌をひらひらとそよがせ車へ向かって行く男の背中に殺意が湧いた。